先日、松川村にある「安曇野ちひろ美術館」を訪ねた。なんと初めてなのである。酒の配達で近くを通るたびに、素晴らしい環境に魅せられてはいたものの、なかなか訪ねるまでの気持の余裕がなかった。
陽気も春めいてきて、灯油の配達の仕事も減り、時間的余裕もできたので、ようやくその機会ができた。いわさきちひろの絵には、確か教科書の挿絵で初めて出会ったような気がする。やわらかなタッチとあざやかな色彩が強く印象に残って、その後もその絵に接するたびに心に安らぎを感じてきた。
駐車場から美術館まで歩く間に「安曇野ちひろ公園」が広がる。ゆったりと広がる芝生と大きな池が、先ほどまで仕事のあわただしさの中にいた気持ちを落ち着けてくれる。小さな子供が通り道にある鉄琴を叩いて軽やかな音色を楽しんでいた。来館者は多いようだ。
館内では、ちょうど開館10周年記念の展示がされていた。5つの展示室をまわって、最も印象に残ったのは、子供をテーマに描かれているちひろの絵には、力強い思想性ともいうべき土性骨があるということだった。
それは、たとえばベトナム戦争の戦禍の中にいる子供の姿を通して伝わってくる、平和を願う強い心と平和を脅かすものに対する怒りであろうか。
ベトナムでの惨禍は、再びアフガニスタンやイラクで、今われわれの日常と同時進行している。ちひろの描くこどもたちの目は、その現実からけっして視線をそらしていないような気がした。
帰りがけ、ミュージアムショップで「井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法」が目にとまった。挿絵はもちろん、いわさきちひろである。日本国憲法の「改正」が喧しい昨今、平和憲法の意味をしっかり考えてみることが、わたしにとって意味のある一日となった。